ジェイク・シマブクロ インタビュー
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ジェイク・シマブクロの最新作『グランド・ウクレレ』は、ビートルズやピンク・フロイドなど数々のアーティストを手がけたアラン・パーソンズをプロデューサーに迎え、ダビングなしでライヴさながらにレコーディング。オーケストラとの曲、リズムセクションとの曲、そしてソロウクレレの曲と、ウクレレの持つ魅力がさまざまなアプローチで最大限に引き出されている名盤だ。このアルバムについてのオフィシャル・インタビューを2回に分けてお届しよう。

Photo : Yasuhiko Roppongi

Vol.1 アラン・パーソンズから学んだこと

――今回のアルバム『Grand Ukulele』(以下GU)の出発点、アイディアはどんなものだったんですか?
「GUのアイディアは、今作のプロデューサーであり、エンジニアであるアラン・パーソンズに出会った時に始まった。彼が一緒にプロジェクトをやることに意欲的だったので、もちろん僕はそのチャンスに飛びついた。僕にとってはヒーローだし、一緒に仕事をするのは夢のようで、ビートルズやピンク・フロイドの『狂気(原題Dark Side Of The Moon)』、自身のアラン・パーソンズ・プロジェクトでの経験を考えると、その彼がウクレレのプロジェクトにどういう面をもってきてくれるのかを見られるなんて素晴らしいと思った。アルバムの話をしだした時に、どういうアルバムにしたらいいか、正直な意見を伝えてくれて、アレンジメントやカヴァー曲についてとにかくたくさん話し合った。オリジナル曲のいくつかは、サンタバーバラにある彼の自宅スタジオで書いたもの。すべてがこのアルバムのためにうまくまとまったし、アルバムを通して最初から最後までひとつのバイブがあって、それがコンセプトアルバムのようでもあって、とてもいいと思う。アランはそうやってバラバラなものをまとめることにとても長けている人だと思う。このアルバムでアランは素晴らしいミュージシャンを集めてくれた。キップ・ウィンガーが多くのオーケストラのアレンジメントをして、30人編成のオーケストラとの共演、リズムセクションではサイモン・フィリップスやランディ・ティコがベースとドラムを担当してくれた。オーケストラとの曲、リズムセクションとの曲、そしてソロのウクレレ曲と、ウクレレのもつさまざまな要素がバランス良くまとまっていると思う」

――アラン・パーソンズと一緒にやると最初に聞いた時に思い描いたイメージはどういうものですか?
「正直に言うと、彼のビジョンはわからなかったけど、素晴らしいチャンスだと思ったので、とにかくオープンな気持ちでいて、彼のアイディアを聞きたいと思った。アランみたいな人は経験も知識も豊富だし、僕がやりたいことはこれとこれなんだと言ってそれしかやらなかったら、今までのものと変わらない。今回のプロジェクトから学びたいという気持ちが強くて、アランから学びたいと思ったし、一歩引いて楽器の新しい可能性を発見したかった。でも驚いたことに、ほとんどアランと同じ意見や考えをもっていたんだ。ひとつは、ライヴですべてレコーディングしたいということ。オーバーダブはしたくないという考えがあって、見事にそのとおりに実現することができたし、その点は二人ともとても誇りに思っている。もうひとつは、全曲において、ウクレレが独立して存在していることをこころがけたかった。もちろんソロのウクレレの曲に関しては、ウクレレの存在は強いけれど、オーケストラやリズムセクションと一緒の曲に関しても、すべてのウクレレのパートをソロでやるかのようにアレンジしてほしいとアランに言われたんだ。これは素晴らしいアプローチだと僕も感じて、特にアルバムをリリースした後ツアーする時にはほとんどソロで弾くので、アルバムの全曲をどちらにしてもウクレレだけで独立したものにしなければならない。現実的に30人編成のオーケストラやリズムセクションと常にツアーをするわけにはいかないから、それはすごくいいアプローチだと思ったし、アレンジという意味でも、他の楽器にウクレレが埋もれることがないから、とてもうまくいったと思う。それはきっとアプローチ、アレンジメント、アルバム全体のコンセプト、そしてアランのレコーディングやミックスの仕方にあると思う。本当に見事で、アランはアルバム全体をたった二日間でミックスして、僕は信じられなかった。30人編成のオーケストラと4曲、リズムセクションと3曲、そして間にソロのウクレレの曲があるのに、本当にすごかった。彼はとにかく直感がすごくて、彼がレコーディングスタジオで作業している姿を見るのは僕にとってとてもいい経験になった」

――とはいえ、アランはずっとロックをやってきた人だと思うんですが、そんなアランのウクレレというものに対する認識には満足しましたか? ウクレレに対してアランは迷ったりしていなかったですか?
「彼が捉えた僕の楽器のサウンドは本当に大好き。楽器の目の前にマイクを配置しなかったエンジニアと仕事するのは初めてだったんだ。おもしろいんだけど、彼は楽器の上と下にマイクを置いたんだ。一本のマイクは僕の右耳のそばで、楽器のボディーの上にあって、もう一本はネックの下にあって上向きに配置して。こういう形でレコーディングをする人に出会うのは初めてだったから、本当に驚いた。最初にスタジオに入った時に、とりあえず試しに何か演奏してみようと言われたので、アランが一番好きと言ってくれた『143』を弾いた。演奏が終わって、レコーディングブースからコントロールルームに行くと、そのレコーディングをかけてくれて、本当に感動したよ。彼が録った音は、アコースティックでウクレレを弾いている時に僕自身に聞こえているサウンドそのものだったから。これまで、レコーディングのサウンドはライヴのものとは別物なんだと受け入れてきたから、彼のおかげでそのギャップが縮まったし、驚くような経験だった。彼がやることすべてが素晴らしくて、ウクレレの微妙なニュアンスを逃すことなく取り込むことができた。他の楽器と一緒に演奏している曲でも、自分が使っている指の箇所によって出る音色の違いを聞き取ることができるんだ。爪を使っているか、指を使っているか、ブリッジの近く、またはネック寄りでストラミングしているか、アップストロークかダウンストロークか。そのすべての違いを聞きとることができて、本当に圧倒されたよ」

――しばらくアルバムをセルフプロデュースしてきたと思いますが、今回はプロデューサーや参加ミュージシャンなど、さまざまな外部の人たちとやってみて気がついた新たな発見とか、一番勉強になったことがあれば教えてください。
「過去にも何度かプロデューサーと仕事をしたことはあって、ソロプロジェクトでは二人いる。最初のプロデューサーはトレーシー・テラダで、日本のデビューアルバムから初期の作品の多くをプロデュースしてくれた。日本でリリースしたアルバムの最初の3、4枚は彼がプロデュースしてくれたと思う。その後セルフプロデュースをし始めて、その最初のアルバムが『ドラゴン』だった。それはすごく楽しかったし、新しいことに挑戦できた。ずっとアナログでレコーディングしたいと思っていたから、ドラゴンはすべてテープにレコーディングした。テープの温もりや個性は特別なものだよね。その後何枚かセルフプロデュースしてから、ナシュビル出身のマック・マカナリーというプロデューサーを迎えた。彼はリトル・フィートやジミー・バフェットを過去にプロデュースし、実際に会ったのもジミー・バフェットのアメリカツアーをやっている時だった。『ジェントリー・ウィープス』というソロウクレレのアルバムを彼と一緒に作り、すべてをナシュビルでレコーディングして、彼はスタジオのこともマイクのことも知識が豊富で、たしか13本か14本のマイクを使ってレコーディングしたんだよね。だからあのアルバムを聴くとサウンドが面白いと思うし、とにかく本当に楽しかった。その後、またセルフプロデュースをし始めて何枚かアルバムをリリースして、今回アランと組むことになった。
 自分の経験でいうと、アーティストがプロデューサーと一緒に仕事をするということはとても大事なことだと思う。なぜかというと、今までセルフプロデュースしてきた作品のことを考えると、プロデュースするという側面は、ミュージシャンとしてスタジオで創造する側面とは頭を切り替えなければならない。セルフプロデュースする時は二足のわらじを履いている。たとえば、簡単なことでいうとスタジオの予約をしたり、予算を考えたり、ミュージシャン全員のスケジュールを調整したり。そういうことも時にはストレスになって、実際にスタジオに入る頃にはたくさんのことが頭に浮かんでいる。スタジオである曲をレコーディングしながら、頭のどこかで『あ、3時にはドラマーに電話しなきゃ』とか『スタジオに入れるようにストリングスのプレイヤーたちに連絡しなきゃ』とか考えていたりするんだ。でもプロデューサーと組んでいるときは、そういう心配はしなくて済む。家で楽曲を練習して、いざスタジオに入ったらそのままやることだけに専念することができる。他のことを考えずに、音楽のことだけを考えて、サウンドやミキシングのことは任せることができた。
 アランの時もそのプラスがあったうえに、アラン・パーソンズと一緒に働くことができるんだからね。彼は、これだというサウンドを作り出す才能を備えている。どう説明すればいいかわからないけど、たとえばスタジオで曲を聴いていて、電話が鳴ると電話に出るために急いでスタジオを出て、僕とエンジニアと二人だけで聴いていると、突然アランがスタジオに戻ってきて、『今のなんだ、5秒巻き戻して』と言われて、すると何かクリックがあったり、あまり好きではないヴォイシングがあったりして『ここを変えることはできるかな?』と言うんだ。ある曲では、コード進行を弾いていて、次の弦に移る時に前の弦から指を離すんだけど、そのやり方ではなくて、次のコードの上にその音が響くようにして欲しいと言われたことがあった。でも彼が何のことを言っているのか僕が聞こえるまで3回ぐらい聞き直さなければいけなかったんだ。ひとつのことに没頭していると、それしか見えないし、それしか聞こえないけど、プロデューサーと一緒に働いていると、彼が一歩引いて全体像を見続けてくれ ている。あまり細かいことに捕われすぎると、大きなイメージを忘れてしまうことがあるし、自分自身プレイヤーとしては、すべてを完璧にしたいと思うからどうしても細かいことを気にしてしまう。でもたまにそこに執着しすぎてしまうと、全体的な感情やフィーリングを変えてしまっていることに気がつかないんだ。時々、何度かレコーディングをして、アランは『今の最高だよ、これだと思う』と言っていても、自分では曲の中のほんの一秒だけど、トランジションがスムースにいかなかったからもう一度やりたいと思って、やり直すんだけど、それを繰り返しているうちにアランに『一度2テイク前に録った曲を聴いてみなよ』と言われて聴いてみると、『あ、これがいいね』って納得する。アーティストとプロデューサーが共に仕事をするのはすごく大事なことだと思う。第二の意見というか、違う観点で聴いてくれるもう一人の人が必要なんだ。今回のアルバムで本当にプロデューサーと一緒にやることの楽しさとを経験したし、アランも今後またプロジェクトをやりたいと言ってくれたので、とてもいい関係を築けたと思う」

Vol.2へ続く

『GRAND UKULELE』JAKE SHIMABUKURO

SICP-3734/5 【初回生産限定盤/DVD付】¥3,150

SICP-3736 【通常盤】¥2,835


【収録曲】
1.Ukulele Five-O/ウクレレ・ファイヴ-O
2.Rolling In The Deep/ローリング・イン・ザ・ディープ
3.Gentlemandolin/ジェントルマンドリン
4.More Ukulele/モア・ウクレレ
5.Missing Three/ミッシング・スリー
6.Music Box/ミュージック・ボックス
7.143
8.Over The Rainbow/オーヴァー・ザ・レインボウ
9.Island Fever Blues/アイランド・フィーバー・ブルース
10.Fields Of Gold/フィールズ・オブ・ゴールド
11.Gone Fishing/ゴーン・フィッシング
12.Akaka Falls/アカカ・フォールズ
13.一期一会~ONE WISH (日本盤ボーナス・トラック)

詳しくはこちらをご覧ください。

 

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