Ukulele Peopleウクレレとともに生きる人へのインタビュー
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hibiscusウクレレ・マガジンができるまで


編集部で仕事中の相川さん。デスクの横にはいつもクマラエ・ウクレレがおいてあり、煮詰まったらポロン。
――相川さんはもともと『アコースティック・ギター・マガジン』を編集されていましたが、『ウクレレ・マガジン』を作ろうというきっかけは何だったんですか?
「ウクレレ自体に興味を持ったのは、ローリング・ココナッツが編集したCD『ウクレレ・ビートルズ』(ジェネオン エンタテインメント)を聴いたときです。それと関口和之さんの『ウクレレ大図鑑』(リットーミュージック)という本を作るタイミングが近かったんですよ。僕はその本に携わってはいないんですが、社内でウクレレの撮影をしているのを見たりして、ウクレレって面白いなと思ったのが最初です。アコギの本を作りつつウクレレ本も、というのもいいかなと思って、『アコースティック・ギター・マガジン』の中でウクレレの市場調査をやってみたんです。どんな人がウクレレに興味を持っているのか、リサーチの意味を込めて、アコギを弾いている人がウクレレに興味を持つようなウクレレ・バイヤーズ・ガイドを作ったんです。それが2006年ですが、そのときにはすでに『ウクレレ・マガジン』の構想はあったんです。その結果、確実に届くだろうというマーケットがあったので、1号目の制作に取りかかりました。ただマーケティングをしていく中で、あまり真面目にマニアックに作り過ぎちゃダメだと思いました。楽器の精度自体、ギターとはちょっと違いますよね。このウクレレ(クマラエ)を手にして再認識したんですけど、ピッチは合わないし、ハイフレットの部分で弾こうと思ってもなかなか、ね」

――フレットないですしね(笑)。
「そういうゆるい部分を考えていかないとダメだと。“こういうウクレレがありますよ”だけじゃやっていけないし、ハイテクニックな部分を紹介するだけじゃダメなので、そのバランスをとりながら作っていくさじ加減がすごく難しかったです。あと各所に“こういう本を作ります”ってアナウンスして回っていたら、バイヤーズ・ガイドに関しては『えっ!? そんなのやっちゃうの?』ってよく言われたんです」

――直輸入が多かったりして統一がとれていないから?
「ええ。代理店がはっきりしていなかったり、価格も店によって違います。でもそういう問題に1個1個取り組んでいくと、ウクレレ界は狭い世界だから『じゃあ次はこの人に話をしてみたら?』と次々に人を紹介してもらえて、筋道を通して解決していくことができたんです」



編集部の渡辺さん。デスクの周りにはCDや楽器が山積みです。もう一人の編集スタッフ熊谷さんは残念ながらロケで不在。
――それで2007年の6月に創刊号が出たわけですけど、どんな反応がありましたか?
「それまでこういう切り口の本がなかったから、読者ハガキの感想もすごくよかったですし、みんながネットで本の情報を広めてくれたりして、ウクレレ好きの間で広まっていったんです。それで、その後も年に1冊ずつ作っていこうと決めました。1号目は満遍なくやったんです。ウクレレの雑誌って、ジェイク・シマブクロみたいなヒーローの特集を大きくやればいいというものでもないので、“ウクレレはこういう楽器で、こういうふうに演奏して、弦はどうこう”というふうに情報を広く拾って作りたかったんです。『アコースティック・ギター・マガジン』で培った人脈もあったので、アーティストたちにアンケートに答えてもらったりね」

――相川さん自身の感想はどうでしたか?

「満遍なくやったので、深くできなかったという反省も実はあったんです。もっとやりたかったのに、やり切れていないという思いもあったんですよ。でも読者からの反応はすごく良かったし、初心者がウクレレを楽しむための指針になったみたいです」

hibiscusウクレレならでは本作り


相川さんの愛器クマラエには、ピッチを調整するパーツS.O.S(HOSCO)がナットと1フレットの間に取り付けられています。これひとつでチューニングがだいぶ安定したそう。
――作る上で特に工夫した部分は?
「ウクレレの教則本とかスコアはいろいろと出ているんですが、ウクレレって、コードが覚えにくいなぁって以前から思っていたんです。5弦のルート、6弦のルートなどの決まりがないじゃないですか。だから1号目では『ウクレレ・コード早覚え術』という企画を勝誠二さんに解説してもらって作ったんです。コードブックを1個1個全部覚えていこうとすると嫌になっちゃうんで、コード進行の流れに沿って押さえ方を覚えていくと、けっこう覚えやすいんです。キーがCだったらC、F、Gというスリーコードがあって、そういう循環コードの形がいくつかありますよね、それで覚えていくとわかりやすいんです」


――あぁ、なるほど。
「あと、ウクレレはやっぱりキーが限定されているなと思ったんです。それなのにウクレレの曲集はオリジナルキーのまま掲載されている本が多いんです。そんなにいろんなキーで弾いているとウクレレは辛くなる部分があるんで、曲集もウクレレに適したキーにアレンジして載せたんです。オリジナルはC♯のキーでも、それをCに変えればすごく簡単に弾けるんですよね」

――リットーミュージックならではの目の付け方というか、気配りですよね。楽器の特性を知っていないとできないことですね。
「ハワイアンの曲がウクレレで弾きやすいというのは、キーの問題だったりするんですよ。ウクレレ・マガジンはハワイアンに限らずいろんな音楽を紹介していきたいと思うので、そういう工夫をしてあげないと“ウクレレって難しい”で終わっちゃう気がしたんです」

――そういう工夫をしてもらえると、ウクレレは弦は4本だし、難しくないですよね。
「そうですね。編集側の一方的な意図ではあるんですけど、それに反応してくれる読者がいると嬉しいです」

――もともとリットーミュージックに馴染みの深い読者層から外に出たという感覚はありましたか? どういう読者層なんでしょう?
「アコースティック・ギターだと30代半ばから50代を中心にほぼ男性というのが前提なんです。他の楽器もピアノ系以外はほぼ男性です。でもウクレレは女性がたくさんいて、かつ年齢層の幅が広過ぎる(笑)」


――地域は?
「アンケートの集計を見ると九州が多かったですね。“九州ウクレレ族”っていうサークルがあるからですかね? 全国各地にサークルは点在しているんで、これからは地域のサークルをもうちょっとフィーチャーしてアマチュアに近づく企画も作っていきたいです」


――ウクレレって、唯一の一般大衆の楽器じゃないですか。まぁピアノもそうかもしれないですけど、ピアノは大人に習えと言われて弾くという流れもある。でもウクレレは80歳になるおばあちゃんが始めたりとか、若い女性も趣味でウクレレを始めたりとか、弾く発想が一般的ですよね。そこが面白いと思います。
「つじあやのさんもそうですけど、女性は手が小さいからギターは無理だと思ってウクレレを始めたという人がけっこう多いんです。それにアンケートを見ていると70代の読者もけっこう多いんですが、それはハワイアンブームをリアルに体験している世代。彼らにとって、ハワイアンは特別な音楽なんですよね。僕らはそれを後から追う立場なんで、ちゃんと理解してやっていきたいという気持ちはありますね」


――読者の何割が女性なんですか?
「ギターは9割が男性という比率なんですが、ウクレレは女性が4割くらいですね」


ウクレレ・マガジン。左からVol.1、Vol.2、最新号のVol.3。最新号の表紙はイラストがジェイク!
――最新号のウクレレ・マガジンVol.3はどんな内容ですか?
「3号目なのでマンネリ感が出ないように作りました。押しはジェイク・シマブクロ特集です。ロング・インタビューを軸にディスコグラフィーでジェイクの音楽性の変遷を追い、愛用カマカの解説もディープに迫っています。直伝レクチャーを交えた奏法分析もウクレレ・マガジンならではの切り口だと思います。あと、前回つじあやのさんを試奏者に立てて女性的な視点で追ったバイヤーズ・ガイド企画を、今回はウクレレを知り尽くした関口和之さんに試奏をお願いしてコメントしてもらいました。掲載されているウクレレは高額なものが多いという声もあるので、今回の機材系特集では日本のフェイマス・ウクレレを紹介しています。ハイクオリティで低価格帯のウクレレを作り続けるフェイマスは日本の宝ですね。あとソロ・ウクレレのアレンジの仕方をバンバンバザールの富永寛之さんにレクチャーしてもらっています。付属CDと連動しているのでわかりやすくて、いろんな曲をソロ・アレンジ化できるようになると思いますよ」


hibiscusウクレレの未来


リットーミュージックから出版されているウクレレ関連本。これ以外の本やDVDもたくさんあるので、リットーミュージックのウェブサイトをチェック。
――ウクレレ・ミュージックについてはどう思いますか?
「“ウクレレはハワイアンだけじゃない”というのはもう当たり前になっているんですけど、ウクレレという楽器の特性をちゃんと理解しているアーティストはそんなに多くはないですし、ウクレレという音楽をきちんと楽しめるライヴはまだまだ少ないですよね。これからどんどん成熟していく音楽なんだと思います」


――ウクレレで奏でる音楽の魅力はどんなところにあると思いますか?
「楽器の精度を高めることを望むんなら、ギターでいいと思うんです。ウクレレの緩さというか、ほのぼのとした雰囲気などを上手く取り入れられるアーティストが増えるといいなと個人的には思います」

――ウクレレを特別にし過ぎている部分はありますよね。
「ジェイクが人気があるのも、彼に憧れて弾いている人がいるのもいいとは思うんですけど、そんなに頑張らなくてもいいじゃない? って思うことはありますね。ヒーローがいて目指すのはいいことなんですけど、音楽的な成熟度がないと、CDにしてもライヴにしても人を楽しませるものはなかなか作れないですよね」

――たとえばオータサンはウクレレをすごく尊重していますよね。ウクレレが鳴るコード感とか、ウクレレの世界に合っている曲やキーを選んでいる。音楽的に余裕があるというか、ウクレレを道具にすることとは一線を画している。ウクレレ・マガジンに登場するアーティストたちはウクレレ界だけじゃなくて、『アコースティック・ギター・マガジン』に出てくるような人がたくさん登場しますよね。それはすごくいいなと思います。
「そこはリットーミュージックならではですね」

――これからウクレレ・マガジンでどんなことをやっていきたいですか?
「読者から年に2回とか4回出して、という声は大きいんですけど、とりあえず本はまだ年に1冊のままで、ウェブの方を充実させていきたいと思います。年間を通して情報をウェブのコンテンツとして出していきたいです」

――1年間空くとネタが寝ちゃいますもんね。
「そうなんです。その間を本とは違うやり方でウェブでやっていきたいと思っています。出版事情もいろいろとありますけど、これからは的確なものを適切なだけ作り、それ以外の部分をウェブのコンテンツで展開して連動していくことが重要だと思います」



2008年に『ウクレレ・マガジンVol.2』カマカ特集の取材でカマカファミリー宅を訪問した際の記念ショット。左から相川さん、フレッドSr.、サミュエルJr.。
――最後に、相川さんにとってウクレレとは?
「自宅でも仕事場でも、机の左上ぐらいにあるものです。だいたい似詰まると手に取っています(笑)。ウクレレを弾くようになって、いろんなことに対して『これでいいのだ』と思えるようになりました。何事も精度を上げていけば良くなる、というのは勝手な思い込みでしたね。それにウクレレが一家に1本あるだけで、音楽や楽器が身近な存在になると思います。みなさんも、ぜひ」

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