Ukulele Peopleウクレレとともに生きる人へのインタビュー
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hibiscusウクレレとの贅沢な出会い

――山本さんとウクレレとの出会いは?
「最初に『NALU』というサーフィン雑誌の取材でハワイに行ったのが、1996年だったと思います。オアフ島西海岸のマカハ地区には、サーフィンの世界でレジェンドと呼ばれるハワイアンの重鎮がたくさん住んでいます。彼らを朝早くから訪ねてインタビューを終え、海岸沿いの道にあるマクドナルドで昼食をとろうと、ハワイ在住のカメラマンの車に乗って戻ろうとしたときです。その日は土曜日だったと思うのですが、訪ねたレジェンドの家からほどない家の庭でパーティが行われていました。きれいな緑の芝生の上に、色とりどりのムームーを着た女性たちや、白いアロハシャツを着た男性たちが数十人いました。そういえばそのレジェンド・サーファーが、これから近所で友だちの結婚式なんだよと言っていたのを思い出し、ちょっと車の中から覗いていたら、誰かが歌を歌っていました。それはもう天使のような美声で、同行したカメラマンが『ワァオ! イズ!』と言いながら車を下りて、観にいこうと言ってくれました。声の主は背の高い木の椅子にもたれるような姿勢で、ウクレレを弾きながら、とんでもなく高いウイスパーヴォイスのような声で歌っていました。何より驚いたのが、その体の大きさ。ものすごい巨体です。ウクレレが本当に本当に小さく、おもちゃのように見えたんです」

――当時はイズ(イズラエル・カマカヴィヴォオレ)のことを知らなかったんですね。
「ええ。聞いても覚えられない名前だったので(笑)、カメラマンに紙に名前を書いてもらい、翌日タワーレコードに行ってローカルチャートを見ると、彼の『Facing Future』というCDが1位になっていて、さっそく買って帰りました。帰りの飛行機の中で、ハワイの思い出として、ウクレレとイズの声がものすごく心に残っていました。でもまだそのときはウクレレを買うまでには至りませんでした。それまでも弦楽器が好きだったんですが、ウクレレにまで興味が持てなくて、ポール・マッカートニーの2作目のソロアルバム『ラム』におさめられている“ラム・オン”という曲のイントロがウクレレっていう楽器なんだなぁ、くらいの認識でした」


山本さんが編集に携わった『ウクレレ・ラブ』と、関口和之さんの初の責任編集ウクレレ本『ウクレレ快楽主義』(ともにTOKYO FM出版刊)。
――その後さらにウクレレとの接点があるわけですね。
「そのハワイでの出来事があった翌年、以前勤めていた出版社の先輩デザイナーから電話がかかってきて、『今サザンオールスターズの関口さんと、ウクレレの本を作っているんだけど、手伝ってくれない?』ということで、土日などの空いた時間で手伝いに行っていました。97年の夏に出版される『ウクレレ・ラブ』という書籍です。三宿にあったデザイン事務所で作業が進み、校了のころには関口さんも校正に現れ、ウクレレを弾きながら楽譜のチェックなどをしていました。関口さんののんびりした雰囲気と、ウクレレを弾く“構え”がすごく良くて、あっという間にウクレレが好きになりました。思えば、とても贅沢な好きになり方ですよね」


――イズだとか関口さんだとか、ウクレレファンのみならず音楽好きから見たらすごく羨ましい体験ですよね。
「本が出版される頃にはウクレレに関しての知識も進み、これはどうしてもウクレレを買わねばならん! と思っていました。しかも、買うならハワイのカマカだ! だって編集している『ウクレレ・ラブ』で特集されていて、読者より早く僕は原稿を読んでいるわけで、いやがうえにも“ウクレレはカマカだ”と刷り込まれてしまっていましたから。本が出た直後、会社の先輩がヴァカンスでハワイに行くというので、どうしても買ってきてほしいと頼んで買ってきてもらったのが、カマカのこのパイナップルです」

hibiscusベーシストにウクレレ好きが多い!?

――そもそも山本さんはどんな音楽を辿ってきたんですか?

「僕の学生時代はバブル期で、いわゆるバンドブームの真っただ中。僕も高校時代からドラムやベースを演奏していました。エリック・クラプトンやジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーンのコピーバンドや、オリジナル曲を演奏するバンドなど、いくつもかけもちしていました。高校時代は折からのメタルブームの時期で、レインボーやマイケル・シェンカー、ツェッペリン、ジェフ・ベックの延長でクラプトンに行き着いた感じです。ハードロックからクラプトンやストーンズに移行して、フーだとか、フェイセスだとかブリティッシュロックを聴いていたある日、フェイセスのロニー・レインのアルバムを聴いて、『ああ、オレの最も好きな音がこれだ!』と思ったんです。イギリス人がアメリカのカントリーなどのルーツミュージックに憧れて出した音。エレキギターにアコースティックギター、マンドリン、バンジョー、バイオリンなど、多彩な弦楽器が多層構造で鳴っていました。ロニー・レインのファーストソロアルバムの『エニモア・フォー・エニモア』です」



山本さんの愛器のカマカたち。手前から最初に手に入れたソプラノ、2本目のテナー、3本目のバリトン。バリトンはお兄さんからのプレゼントだそう。
――ロニー・レインはベーシストですよね?
「そう、サザンの関口さんもそうだし、細野晴臣さんも、ポール・マッカートニーもそうですが、ベーシストが作るソロアルバムが、僕はとても好きなんです。ギターだけではなくて、さまざまな弦楽器が鳴っているセンスのいい演奏であることが多い。これはベーシストの特性なのかなとも思いますが、エレキギターだけでアレンジを決めないんだと思うんです。そうかといって、鍵盤楽器をメインにもってくることもない。やはり弦楽器で個性を出してくる。結果、個性的な弦楽器が要所で鳴っている。そんなアルバムが好きでした。そんなふうに音楽を聴いていて、次第にウクレレにも興味が出てきていました。弦が4本だというのは、ギターを上手く弾けなくて、仕方なくベースを弾いていた僕みたいな人にとっても、とても親近感を感じやすい、大きなポイントだと思うんですよね」


――ライル・リッツもそうですけど、ベーシストがウクレレにハマることは多いですよね。
「社会人になり金欠病だった僕は、持っていたミュージックマンのベースは楽器屋さんに売り払い、グレッチのスネアドラムも友人に払い下げ、まったく楽器を弾いていない状況でした。だから会社の先輩にハワイで買ってきてもらったパイナップルのウクレレが久しぶりの楽器で、楽器がある生活を思い出し、すごく嬉しかったのを覚えています。狭い部屋にもウクレレは邪魔にならず、彼女が遊びに来ても、音量が小さいから部屋でポロンポロンと弾けて、何より屋外でも弾けることが最大の魅力で、アウトドアでのキャンプなどにもよく持っていきました」

――私たちカマカクラブも最近よくキャンプイベントにブースを出してウクレレを弾いてもらったりしていますが、焚き火を囲んでウクレレを弾くって、最高に気持ちいいですよね。
「そうそう。それに僕は車によく積んでいて、渋滞したときなんかに弾いたりしています。イライラしなくていいですよ。ウクレレは渋滞さえもいい時間に変えてくれる楽器ですね」


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