musician's talk ウクレレを愛するミュージシャンへのインタビュー
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Vol.2 イマジネーションを育てる楽器

sekiguchi


――その後ソロ活動をなさり、しばらくしてからウクレレを弾きはじめるわけですが、最初はウクレレにピンと来なかったんですよね?
「知り合いの事務所のアイドルたちがクリスマスライヴをやるからバックでウクレレを弾いてくれと頼まれたのが最初です。そのときにナカニシのソプラノウクレレをもらいました。その後名古屋のアマチュア・ウクレレユニットをプロデュースする機会があって、頻繁に触るようになったんですけど、僕はまだベースを弾いていたんです。やっぱり自分はベーシストという意識があったんですね。そうこうするうちにローリングココナッツの津和野さんから『ウクレレ・ビートルズ』というCDを作るからウクレレを弾いてくれとオファーをいただいたんです。僕としては遊びの感覚で、普段自分がやらないことをウクレレでやろうと思ったんです。いつもはバンドサウンドをきっちり作り上げていましたけど、そのときはドラムとベースとウクレレだけにしようと。ドラムでもおかずを入れるのはやめて、とにかくリズムだけ。ベースもいつもはジャズベースを使うんですけど、個性的な音ゆえになかなか使う機会のないバイオリンベースを使おう。ウクレレがソロを弾くとバッキングはドラムとベースだけになっちゃうけど、敢えてそうしよう。歌もいつもはわりと元気に歌うんですけど、オクターブ下で歌っちゃおう。そんなふうに楽しく遊ばせていただいたら次の『ウクレレ・レノン』にも参加させていただくことになり、そのうち本を出すお話をいただいたりするようになったんです。『超やさしいウクレレ講座』というDVD付きの教則本を作ることになって、DVDの撮影で『ウクレレはこのように構えます』と僕が構えると、ヒソヒソ声で『勝さん、もっと上です』って津和野さんが教えてくれるんですよ(笑)。『えっ、みんなこんな上で弾いてるの!? 弾きにくくないの?』なんて言ってたんです(笑)。左手の親指はネックからはみ出てるし(笑)。ところがその教則本を出してしばらく経った頃、その本でウクレレを勉強していると言ってくださる方が増えてきたんです。もちろん本はきちんと作っていますので、とても嬉しいんですけど、僕としてはウクレレはまだまだ遊び感覚だったのに『あれ? ちゃんとやらないとマズいかも…』と思いはじめて、ウクレレへの意識が変わりましたね」

――それまでは好きな曲を独自の弾き方で好きなように弾いていたんですね。
「特にハワイアンが好きだったわけじゃないし、ずっとロックばかりを聴いてきたから急にハワイアンにシフトはしなかったですね。ハワイに行ってハワイアンを聴くとやっぱりすごくいいなぁって思いますけど、自分から進んでやりたいとは感じていないんですよ」

――ウクレレトリオの「エリ・カツ・ノリィ」の活動と並行してソロ活動を始めたのは?
「それまではチャカチャカ弾いて歌っていたんですけど、ウクレレを弾く人はウクレレソロが好きな人が多いじゃないですか? それでお世話になり出したGストリングの担当の人からソロを勧められたんですけど、黙って弾くなんてめちゃくちゃ緊張するし、耐えられないわけですよ(笑)。でも引き受けてなんとかやってみたんですけど、やっぱり歌が好きなので半分くらいは歌を入れちゃうんです。そうしているうちにだんだんレパートリーが増え、単独でライヴをやるようになったのは2009年の10月から。ライヴをやると『勝さんのCDないんですか?』ってよく言われるようになり、だったらということで作ったのが『CIDER POP!!』です」

――勝さんは歌もあるのがいいですよね。勝さんのファンキーなヴォーカルのファンは多いと思います。
「黙って弾いていられないから(笑)。ウクレレを弾く人って、ソロウクレレか、歌のバッキングでウクレレを弾くかのどちらかでしょう。ソロもやるし歌も歌うという人があまりいないですよね。そう考えたらソロもやるよう勧めてくださって感謝ですね。でもCDを作る時に何をやろうかすごく考えたんです。まぁ歌が好きだから歌はやろうと」


KALAのウクレレベース「U BASS」。ボディ・サイズはバリトン相当で、出てくる音はウッドベースそっくりという驚きの楽器。マホガニー単板ボディにポリウレタン素材の専用弦、シャドウ製のピエゾピックアップを搭載。チューニングはウクレレと違い、ベースと同様に4弦からEADG。勝さんの愛器はフレットレス仕様で、ライヴでも大活躍の1本。

――ベースも勝さんならではですよね。
「すごくベースを褒めていただいて嬉しかったですね。確かにウクレレのアルバムであんなにやかましいほどベースが響いているものは今までなかったかもしれないですね」

――ウクレレ好きなベーシストが多いのはなぜでしょう?
「たぶん足りないものがある楽器というか、ベースを弾いているとコード楽器やメロディ楽器がほしくなるんですよ。ウクレレも音域は限られているし、“足りないものを補いながら演奏する楽器”という共通点はありますよね。足りないものをどこで補うのかというと、自分の中にある音楽的イマジネーション。それは聴いている人も同じだと思います。足りない部分を意識せず補いながら聴いているんだと思います。今の音楽って、足りないものを重ねて重ねて、全部の要素が入ってしまっているんで、自分のイマジネーションを介入させる余地がない。しかもそれに映像がついていたりするから受け入れるだけになってしまって、音楽に自分を反映させることができなくなっていると思うんです。だからウクレレ好きな人は自らのイマジネーションをフル稼働させることができる人たちなんじゃないかな。昔は僕も『ウクレレって音域は狭いし、大きい音が出ないし、ロングトーンは出ないし、足りないものが多い』って言ってたんですけど、実は足りなさがちょうどいいんですよ。そのバランスが完璧な楽器だと思います。足りなさ加減のバランスがすごくいいから、とても立体的に捉えられる。平面的な楽器じゃないと思います。人間もそうですけど、カッコイイだけのものやキレイなだけのものにはこころが動かないんです。『こんなにキレイなのにこんな癖が!?』くらいのほうが素敵に見えるでしょう? そういう意味でウクレレはパーフェクトだと思います」


2011年8月に開催されたウクレレピクニックのステージ。サンプラーを駆使したパーカッシブなプレイが会場を熱く盛り上げる。Photo : Masumi Nakajima
――“簡単だから”という理由だけでなく、音楽をやるとか、音楽的なものを身につけるために最高の楽器ということですね。
「その能力を持っている楽器だと思います。人に音楽的にいい影響を与える楽器なんでしょうね。“敷居が低いけど奥が深い”とよく言われるのはそういう理由だと思いますよ。そんな楽器ほかにないですよね? だから多くの人がハマってしまうんだと思います」
























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