Vol.3:
音楽は学問やから。
ウクレレをマスターするためには
――ウクレレの弾き方でしっかりしなければならないところはどこですか?
「まずフォームってすごく大事なんです。ウクレレはピッチが取りづらいんです。こんな短いスケールでナイロン弦なんで、ちょっとでも指に力が入りすぎると音程がシャープするんですよ。G7でシャープする人もいるんですもん。それなのにウクレレはシャープするものだと思って弾いている人が多いんです。ちゃんと押さえればしませんよ。大切なのは押さえる力と脱力感。音程って、押さえたからそのまま音程が出るわけではなくて、作るんですよ。フレットがあったとしてもね。うまく作れなかったらヴィヴラートで調整するんですけど。大事なのはやっぱり音程で、ピッチをちゃんと取れるかどうかですよ」
――そう考えるとウクレレはそう簡単なものではないと。
「どんな楽器でもそうですね。マスターするのはそんなに簡単じゃないですよ。でも本屋さんに行けばウクレレは『一週間で弾ける』って書いてあるんです。それでみんなすぐ弾けるものだと勘違いして習いに来るんですけど、実際は全然そんなわけないです。『1週間で弾けるウクレレ』って、そりゃキャッチとしてはいいですよ。でもそれを言い過ぎたらあかんと思います。初めからちゃんとしたフォームをしてないから変なクセがついていたりして、その後始末にめっちゃ追われるときありますから。それに楽器としてそれなりのことができるのに、『ウクレレはこれでええねん』という人が多いんですよ。いやいや、楽器として扱うならもっと真剣に取り組んだほうがいいんじゃないですか? って思うけど、そんなことを言っていると生徒さんがだれも来なくなるんで(笑)、気をつけなくちゃいけない」
――笑。松井さんは生徒さんへどのようなアプローチをされるんですか?
「僕は初心者の生徒さんたちには教えていないんですよ。他のスタッフが教えているんですけど、音楽を演奏するということは、それなりに努力しなければなりませんよね。偶然では弾けないので、頭の中で自分が上手いこと弾けている姿をイメージすることが大事です。完成予想図をどこまで細かく想像して定義できるか、自分の好きなプレイヤーはどんなフォームで演奏をしていたか、なぜそのフォームで演奏していたのか、そこまで深く考えて想像できる人が上手くなる。生徒さんたちにはそう言っています。おちゃらけ気分で来た人がそんなことを言われたら、絶対にすぐに辞めますよ」
――そんな松井さんの教室に生徒さんが集まるようになるには、どのくらいの時間がかかったんですか?
「僕が第一線から退いた瞬間に集まりました」
――笑。要するに松井さんのそういうお話が聞こえなくなったら、人が集まるようになったと(笑)。
「僕が直接教えないで、アタリの柔らかいスタッフたちが教えるとね」
――松井さんでは商売にならないんですね(笑)。
「ならなかったですね(笑)。『音楽は学問やからね』って言ってお客さんからめっちゃ引かれました。『じゃあいいです』って言われましたね。でも人前で表現するんですから、練習することは学問でしょう? 演奏して表現するときが初めて芸術で、それまでは学問ですわ」
――かっこいいなぁ~。
「何かを上手くなろうと思ったら、やっぱり何かを犠牲にしなければいけないですよね」
――松井さんはたくさんのものを犠牲にしてきましたからね。教えていて嬉しい瞬間はあるんですか?
「もちろんありますよ。上手くならないからって面倒くさくなったりすることもないです。相手に意味が伝わったとか、いい解説を思いついたときは嬉しくなります。ホント対自分なんですけど(笑)。手の位置をこうする理由はこういうことだったんだ! とか思いついたときは最高に嬉しいです」
――そこに生徒さんは関係ないんですね(笑)。やっぱり松井さんは完全なミュージシャンなんですよね。でも教えて学ぶっていうのはミュージシャンの醍醐味ですよね。
「でも本当は生徒さんが上手くなったら嬉しいんですよ、敢えて言いますけど。上手くならなかったら自分の責任のような気がするんですよ。お金を頂いているんで、仕事として成り立たせるなら、やっぱり上手くなってほしい。自分の生徒さんがよその生徒さんと一緒にやっていてヘマこいたら嫌なわけですよ。最初は楽譜だけ見て弾いていたらいいんですけど、最終的には自分でアレンジできるくらいになってもらいたいんでね」
――ウクレレの課題曲はどんなものを勧めるんですか?
「奏法で分けているんですよ。ストラムでいく曲と、指で弾く曲と、単音で弾く曲、という感じで、それぞれの奏法に合う曲を探して譜面を起こします。曲は20年代とか30年代とかのスタンダードが多くて、最近の曲はほぼないですね」
――生徒さんからのリクエストはないんですか? 長渕がやりたいっていう人は?
「それはほかでどうぞ(笑)。知らないから無理ですもん(笑)。でも雇われて教えているクラスの発表会では、生徒さんのリクエストで知らない曲をやったこともありますよ。You Tubeで探して音を取りましたよ。このあいだはポニョ(『崖の上のポニョ』)もやりましたし、SMAPもやりましたね。たいがいどんな曲でもできるんですけど、音域が広すぎたりするとちょっと無理ですよね。でも生徒さんもたいがいマニアックな曲を持ってきますよ。『そう来た!?』って感じで面白いです」
――今はウクレレを教えるので忙しいんですか?
「今は岸和田のOhanaと梅田のラピーヌと、フレイムハウス、京都の58ダイナーとここのスタジオですから月に10日くらいですかね(※)」
“余地”のある楽器
――ウクレレと一緒にいる時間は多いですか?
「スタジオでは机の横に置いているからすぐに手に取ります」
――そのくらい手軽ってことですかね。
「手軽なのに、やろうと思ったらいろいろできるところが面白いですよね。言うたら、縛りがあるわけじゃないですか。それに僕はローG(の弦)を絶対に使いたくないし。この弦(ハイG)を使ってどう弾くか研究するのが楽しいんです。ウクレレには、数年前までナショナルのギターの弦を作っていたガドルーペ・カスタムストリングスというカリフォルニアのメーカーの巻き弦を使っています。ギターに慣れているからかもしれなけど、これが弾きやすいし、音質は丸太いんです」
――カマカはどうですか?
「10年前まで基本的にハワイ製のウクレレはまったく信用していなかったんですよ。でもカマカはやっぱり当時から良くて、ストロークで弾くときの音のまとまり感はやっぱりカマカなんですよ」
――ウクレレとギターの物理的な違いは何ですか?
「ギターはできることがありすぎて面倒くさいんです。ギターで作ったら完成したものが出来上がっちゃうんで、バンド的にも余地がないんですよ。ギターはオーケストレーションを再現できてしまうけど、ウクレレは音域が狭いので余地がいっぱいあるから、ほかのミュージシャンたちと一緒に音楽が作れる。それにまだ奏法も完成されていなくて、ハワイアンなりジャズなりソロなり、多種多様な奏法が今もどんどん出てくるので、その人たちがどんな考えでその奏法をしているのか知るのが楽しいですよね。あと、やっぱりウクレレには歌が合いますよ。“ウクレレ・アイク”ことクリフ・エドワーズには憧れましたもん。ディズニー映画の『ピノキオ』でジミニー・クリケット役をやり、「星に願いを」を歌った人です。ジャズのアルバムをいっぱい出していますが、彼のウクレレを弾きながら歌う軽やかさは本当にいいですよ」
――声のトーンにウクレレが合いますよね。
「ギターには余分な高さと低さがあるけど、ウクレレはないですからね。ギターはサスティーンにも気を使うんですけど、ウクレレはそんなに音が伸びないし、音が切りやすい。あとウクレレを回したり、膝にこすって音を出す(ように見せたり)、手品みたいな遊びのプレイをするのも小さくてやりやすいんで、ウクレレは弾いていて本当に楽しい楽器です」
※松井朝敬さんが教えるウクレレ・スクール
詳細は直接各スクールにお問合せください。
●Sweet Strings
大阪府大阪市北区東天満1-5-2信保ビル402
TEL : 06-4800-0047
●58DINER
京都府京都市左京区岡崎最勝寺町
TEL : 075-752-1358
●ラピーヌ(梅田店)
大阪府大阪市北区茶屋町10-9
TEL : 06-6375-1433
●OHANA
大阪府岸和田市宮本町5-6 1F
TEL : 072-431-7788
●フレイムハウス
大阪府大阪市中央区淡路町1-6-4 2F
TEL : 06-6226-0107
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