musician's talk ウクレレを愛するミュージシャンへのインタビュー
gray-dot
Vol.2:
目の前の風景がそのまま音楽に。


sekiguchi


いるだけで音楽的な場所ヒロ

――ハワイでは現地の音楽に触れる機会はあったんですか?
おおはた 「ヒロのレストランで男の人がウクレレで弾き語りをしていて、それがね……微妙な選曲なんです(笑)。すごく上手いんですけどイーグルスをウクレレで弾いていて、僕らは『この様子だと次はボブ・スキャッグスがくるね』って話していたら、本当にきたんですよ。キター!! ってビックリしましたね(笑)。音楽を聴いたのはそれくらいで、あまり音が鳴らない時間を過ごしていたんです。でもヒロはいるだけで音楽的なところでしたね。都会はいつもガンガン音楽がかかっていて飽和状態だから全然音楽を感じないんですよ。ヒロではウクレレの音が聞こえてきただけですごく嬉しくなるし、音楽ってやっぱりいいなぁ、って思いました」

――都会では無理やり聴かされている感じですもんね。音楽が流れている感じではなく単にやたらと音が鳴っている感じですよね。
クリス 「隙間がないんですよね」

――アルバムにはコーキーガエルの鳴き声が入っていますが、これは本当に音楽的ですね。
おおはた 「コーキーガエルは象徴的ですよね。あとクリスさんが以前僕にくれた鳥笛があるんですけど、ハワイで鳴らしてみたら鳥たちがすごかったですよね」
クリス 「そうそう。以前プレゼントしたものなんですけど、ハワイであんなに活用してくれるとは……。鳥も呼んじゃうし、他にもいろいろとね(笑)」

――どういうふうに鳥が集まってくるんですか?
おおはた 「集まるというか、反応するんです。鳥笛を鳴らすと、その音はその場所にいない鳥の音なんでしょうね、『おい誰だ!?』みたいな感じで鳥たちが騒ぎ出すんです」
クリス 「すごかったよね(笑)」
おおはた 「僕もそんなつもりじゃなかったのに」

――それ面白いですね(笑)。
おおはた 「ハワイに行って自分が普段いかに耳が疲れているか、物や音が溢れているところにいるんだな、と実感しました。それは好きも嫌いも半々だから、じゃあ結局どこにいたいのかと訊かれたら僕は下北沢にいたいんですけど、それでもやっぱり『これは異常だな』と思う瞬間はありますよ。」


――クリスさんも仕事柄毎日音楽を聴くわけですよね。
クリス 「個人的なことを言うと、私は普段仕事でたくさんの音楽を聴くので、仕事から離れた時には生活の音を重視するんですよ。犬の声とか食材を切っている音だとか、なんでもない生活音の中に自分を敢えて置いておきたいんです。ずっと音楽を聴いて街を歩いているのもいいんだけど、そうすると毎日に変化がなくなっちゃう。それが怖いんです。同じ音楽を『この土地で聴いたらどう違うんだろう?』とわざわざ持って行って聴いたりはするんですけど、日常全部の風景を自分から同じにしようとは思わないんですよね。音楽は風景とすごくリンクしてるから、ひとつの音楽を聴くと昔の懐かしい思い出もしかり、昨日のこともしかり、すごくリンクしちゃうんですよ。だから自分のペースで自分の世界を守りたい、余計なものを入れたくないという気持ちがあるんです」

――なるほど。それよくわかります。では今回の経験や作品を通じて音楽に対してちょっと変わった部分はありますか?
クリス 「このアルバムを作った時にもちろん自分たちで聴くという作業があるわけですけど、コーキーガエルとかおおはたくんが録った現地の音とか、確かに目の前にあったあの風景が音になっていることに対して身に沁みて感動するんですよね。風景と音楽がリンクするということを、あまりにも真ん中にいて感じることができたからすごく幸せ。それを聴くたびにすべてが蘇るから、音って素晴らしいなと思うんですよ。もっとこういう体験をしたいと思いました。それにハワイでは生活の中に歌うことやフラを踊ることが自然にあった。それまで自分の中で歌うということを大きく捉えていたんですけど、ハワイに行ったら普通のことに思えたんですよね。アーティストだからとか、サラリーマンだからとかは関係なく、もっとそれぞれが地域の音楽や言葉について自分の中に何か持っていてもおかしくないんじゃないかな、もっとあるといいのにな、って思いました。自分の中に持っていると、誰かの音楽を聴いたときにも『どうしてそういうものなんだろう?』と想像すると思うんです」


深く濃いひとつの旅から生まれたもの

――ここまでアルバム制作の話を伺って、ふと思いついたことが作品になるというその流れがいいですね。
おおはた 「逆に言えば企画してできるものでもないんですよね」
クリス 「計画をしてそれに向かうということはもちろん大切なことですけど、でも私はそうじゃないものをいつも探しちゃうんです。その場所にあるものを感じてみんなで味わうという瞬間のことが素晴らしいので、それ以外のことはつまらなくなっちゃうんですよ。決まったことをやるのは当たり前で、そうでないものをどれだけ取り込んでいけるか、その体力や精神を持っていられるかということが基本的なテーマなんです。今回は決まりごとなく進んだし、その場にあるものを吸収してやっていくという作り方ができたので本当によかったです。私は音楽の作り方はわからないけど、こういうやり方なら私でもわかる。音楽はいつも生きものみたいに変わるし、ライヴでおおはた君を見ていてもそうだし」

――おおはたさんはライヴごとにフレーズが変わりますもんね。
おおはた 「覚えてないっていう噂もありますけどね……」

――お二人特有の世界がここにマッチしたんですね。
おおはた 「前作(『Music from the Magic Shop』)くらいからレコーディングがすごく楽しいものになってきたんです。それは誰かと一緒に作ることで自分が自分らしくいられるからなんです。今まではずっと自分ひとりで作ってきたんですけど、むしろその方が自分じゃないんですよ。前作でジェシー・ハリスとリチャード・ジュリアンと一緒にやったときに『彼らに預けちゃえばいいや、自分は歌うだけでいいや』と思ったら自分らしくなれたんですよ。そういう意味でも今回は高田漣君がいてくれたからクリスさんも僕も大船に乗ったつもりでいられたんです」

――おおはたさんの音楽活動の中でもすごくいい経験になったんですね。
おおはた 「これほど深くひとつの旅をしたことがなかったので、こんな濃さは初めてですね。でもこんなに強い経験をしてこんなに感じて作ったのに、この中に込めた大切なことですら、やっぱり忘れちゃうんですよ。“一日の終わりが美しければ、明日のはじまりも美しい”っていう歌詞があるんですけど、せっかくいい1日だったのに何かで台無しにしちゃったり……。なんでこんなに濃い旅をしたのに、今でもイライラしたりとか、嫌な気持ちになっちゃったりするんでしょうね」

――おおはた君は1日の終わりにこのアルバムを見よう(笑)。
おおはた 「「本当にそう(笑)。自分たちで作ったものなのに、いまだにこれからいろいろと教えられるし、すごく驚きと感謝が入り混じったアルバムです。クリスさんの歌詞ひとつ取っても伝えたいことがあって、それを人に感じてもらうには人を信頼してないとできないですよ。もっとわかりやすいものっていっぱいあると思うんですけど、こういう作品は聴いてくれる人を信頼していないとできないと思う」
クリス 「旅をすると、もっとゆっくり生きることって大事だなとか、人には優しくしようとか、比べないで自分の道を行こうとか、当たり前のことをいろいろと思うわけですけど、そういうのって時々投げかけ合えばいいことだと思うんですよね。私たちは今回投げかける側で、みんなに届けばいいなと思います」

サソ




















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