musician's talk ウクレレを愛するミュージシャンへのインタビュー
gray-dot
Vol.1:
ハワイで感じるだけでいい。


sekiguchi

きっかけの1曲と合宿

――どういうきっかけでお二人は一緒に音楽をやることになったんですか?
クリス 「私のJ-WAVEの番組(BOOM TOWN)の中に、気持ちのいい音楽を紹介するSOUNDS GREENというコーナーがあって、そのイメージ・ソングを作ることになったんです。番組のスタッフは私が物を書くことが好きだと知っているので、私が詞を作って、作曲と演奏をおおはたさんにお願いしたら面白いのではないか、という話になったんです」
おおはた 「それまで何回か番組にゲストで呼んでいただいていたので、普通に『そうだね、やろうか』という自然な流れでした。それで『peace in you』という曲を作ったんです。その曲は僕の『Music from the Magic Shop』(2008年/ワーナーミュージック・ジャパン)というアルバムの初回盤にだけ特典で入っているんですけど、その曲作りがすごく楽しかったんですよ。合宿したりとかね」

――1曲作るために合宿したんですか!?
クリス 「そうそう。私なんか曲作りなんてしたことがなかったから、それが当たり前だ、くらいの気持ちでした(笑)」
おおはた 「合宿は飲み会(笑)。でも合宿で飲みながらいろんな話をしているうちに1曲できたんです。居間の暖炉の前でギターを弾いていたんですが、クリスさんが『Desperado』を歌ってくれたんですよ。そのとき『あ、いいなぁ』と何か感じるものがあったんです。それで最初はクリスさんが歌う予定はなかったんですけど、急遽コーラスに参加してもらったんです。合宿1日、レコーディング1日で作ったんですけど、とても楽しくて、すごく上手くいったんですよ。それでもうちょっとやってみたいと思って、打ち上げの時にもっと作ってみようと提案したんです。『peace in you』は自然をテーマにした曲だったんですけど、『じゃあ次のテーマは“ハワイ”でどうだろう?』と。ただ最初はアルバムを作るのではなく、まずクリスさんが本を書いたらいいんじゃないかと思ったんです」

――じゃあ『懐かしいのに、はじめまして。』(ブルース・インターアクションズ)はおおはたさんからの提案でできた本なんですね。
おおはた 「クリスさんのホームページには彼女が撮影した写真に文章を付けて載せているんです。それが素敵なので、そういうものを本にして、本の最後にCDを1枚付ける作品を作らないかと持ちかけたんです。僕もハワイやハワイの音楽に興味があったし」
クリス 「私も直感的に『いいかも、やりたい』って思ったんですよね。何か仕事をするときに最初の感覚が私にとってすごく大事なんです。10代の頃から趣味で物を書いていたんですけど、誰かに見せるとかそれをシェアすることはしないできたんです。それまでも本を作る話をいただいたことはあったんですけど、なぜか踏み切れなかったんですよ。でもここでやろうと思ったのはきっといい時期だったからでしょうね」

――「peace in you」の作詞ではそれまでと同じ感覚で詩を書いたんですか?
クリス 「自分が思っていることをそのまま書くのと、歌にするために書くのは全然違うことじゃないですか。私はそれを全然わかっていなくて、おおはた君に大量の言葉数の文字を送ったんですよ。嫌がらせのように(笑)」

――音に乗せようと思わずに書いたんですね。おおはたさんはどんなものが来ると思っていました?
おおはた 「最初は全然想像していなくて、何が来てもいいという感じだったんですが、1曲なのに3〜4曲分くらいの文章量が来たんです」
クリス 「歌詞を書いたことがなかったので、私が想像して広がっていた詞の中の、どこを削ってどこを膨らませたらいいのかがわからなかったんです。だから経験のあるおおはた君に任せちゃった方がいいやと思ってそのまま送ったんですよ。最初は曲から作るのか詞から作るのかもわからなかったんですけど、送った詞の中でおおはた君が引っ掛かった部分を拾ってくれて、その部分をまた膨らませる、というふうに作りました」


“何か”を感じるため、ハワイ島へ

――好きな音楽に関して、クリスさんとおおはたさんの共通点はあったんですか?
おおはた 「パット・メセニーだとか、好きなものに対する共通点ももちろんあるんですけど、『こういうのは嫌だな』という嫌いなポイントも近いんです。それって結構大事で、アルバムのプロデュースは高田漣君なんですけど、彼とも『これは嫌だ』というポイントが一緒なんですよ」

――確かに一緒にやっていくうえでは好きな共通点よりも違うと感じる共通点の方が大切だったりしますよね。このアルバム『lost & found』はどういう流れで作ったんですか?
おおはた 「まず1週間くらいハワイに行ったんです。僕らは合宿ありきなんで(笑)」
クリス 「合宿で突き詰めてからですね(笑)」

――合宿に行く前にテーマを掲げて「よし! 行くぞ!!」って感じですか?
おおはた 「いや、『なんで僕も行くのかな?』って感じでした(笑)。行っていいのかなぁ、って」

――本来はクリスさんがハワイに行って本を書き、その内容に合わせておおはたさんが日本で曲を作る、という予定だったんですか?
クリス 「全体があやふやなままだったんです。一時はCDの企画の方が強くなって本を止めるという話にもなったんですけど、結局は全部やっちゃったんです」
おおはた 「とにかくハワイに行ってみようと。行ってみなきゃ何もできないだろうし、行って感じるしかないんですよね」
クリス 「それが大きいですよね。ハワイで『何も書けない、どうしよう』と思うときもあったんですけど、おおはた君が『大丈夫ですよ。感じるだけでいいんです』って言ってくれて」
おおはた 「行くだけでいいんです。その場であくせく曲を作ろうと思わずに、行ってぼーっとしてれば、絶対にいろんなことが入ってくるから」
クリス 「物を作ることが前提なのに何もしないという時間の使い方って心情的に難しいんですよね。でも確実に普段と違う場所にいるということと、おおはた君が一緒にいていろんなものを見たり、その日あったことを話しながら一緒に旅をする。それはすごく大きいことでした。すごく面白かったのは、日本に戻って作業したときに、拾っていることが一緒だったりするんですよ。『あ、そう思ってたんだ!? 私も思ってた』って」

――おおはたさんは旅をして曲を書くということは今まであったんですか?
おおはた 「いや、それまでは考えたこともなかったです。でも今回ハワイに行って、自分は反芻しながら曲を書くタイプだと思ったんです。現地で書くより旅から帰ってきて思ったことを書く。もちろん現地でメロディーの断片みたいなものは書き留めたりしましたけど、旅から帰って思い出すとまた違う思いが出てくるんですよね」
クリス 「言葉もそうで、湧き上がってきた時の言葉ももちろんライヴでいいんですけど、やっぱり聴く人にどう届けたらいいのか、後からよく考えましたね。聴く人がどういうふうに受け取るかとか、隙間に自分のことを想像できるといいとか。私の場合はハワイという土地に対する思いはすでにあるんですけど、それはすごく個人的なものだから、人とシェアするときにそれをどう言葉にしたらいいのか、どの部分をすくい上げればいいのか。アルバムのテーマは“ハワイ”とか“ゆったりした時間”ということだったんですけど、曲はそんなにハワイハワイしていないんですよ。書いているうちに、聴く人が自分のルーツを感じてくれたりとか、もっと大きなことでいいのかなと思うようになったんです」

――サウンドに関しても、結局はおおはたさん節が活きていて、それがハワイを感じさせるところがすごいんです。普通だったらちょっとハワイっぽいフレーズにしようかとか思うじゃないですか。
おおはた 「それは思わなかったですね。たぶんひとつのものにどっぷり浸からない性格なんでしょうね。どこにいても訪ねてきた人みたいな気持ちがあるかもしれません」
クリス 「でもそれくらいの方がいいというか、おおはた君は土地にいることが上手な人だと思いました。『わーい、ハワイだ!』みたいな感じで行くとそこに入るまでに時間がかかりそうですけど、おおはた君は自然と馴染んでいました」

――おおはたさんが肌で感じたハワイの印象は?
おおはた 「ハワイに行ったのは初めてだったんですけど、すごい空気だなと思いましたね。拒絶されない感覚があって、のんびりしていてすごく居やすかったです。一人で行っていたら感じ方もまた違ったんでしょうけど、今回はクリスさんもいてくれたから大船に乗ったつもりでいました。ハワイの溶岩はまるで他の星に来ちゃったような、すごいところでしたし、オアフ島で行ったヘイアウには『僕はここに来るためにハワイまで来たんだな』と思えるような感動がありました。土地に来るだけで感動するなんて、普段そんなこと全然ないんですけどね。本当に静かだし、風があるんだけどないような……」

――ゆるさの中にパワーがあり、芯に強いものがありますよね。

サソ




















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