Vol.1:
ウクレレ冬の時代に、ボクは恋に落ちた。
ウクレレとの出会い
――関口さんがハワイに惹かれた理由はなんだったんですか?
「ハワイに渡ったきっかけはウクレレです。過去(1979年)に一度CM撮影の仕事でハワイに行ったことはあったんですが、スケジュールもタイトだったし、そんなにピンとこなかったんです。ただ『光が日本と全然違うなぁ』という強烈な印象がありました。その後二度目に行くのはだいぶ時間が経ってからで(1993年~94年)、たくさんのウクレレを見るという目的がありました。ウクレレとの出会いはハワイとは全然関係なかったんですが、本場ハワイに行けばたくさんのウクレレがあるに違いないと思って……」
――ウクレレとの出会いはどんなものだったんですか?
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カイロの紫のバラ
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「ある日ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』という映画を観たんです。主人公のミア・ファーローは映画を観ることだけが楽しみの女の子で、ある日彼女の大好きな映画の主人公がスクリーンから出てくるんです。その映画自体は主人公がいなくなって大騒ぎになるんですけど、彼と彼女は一緒に旅立とうとするんです。劇中、彼女が彼にウクレレを弾いてあげるシーンがすごくかわいくて、『こんなふうに弾ける楽器っていいなぁ』と思い、すぐに渋谷のヤマハに走ったんです」
――笑
「ところがその頃(1987~88年)は僕らが『ウクレレ冬の時代』と呼んでいるようにウクレレがまったく注目されていない時代で、店には国産のフェイマスが3本並んでいるだけ。そのなかのパイナップル型の1本を買いました。教則本はバッキー白片さんの、ワイキキ・ビーチの着色写真が表紙になっているものしかなかったんですよ(笑)。まぁいいか、ってそれを買って帰ったんですが、たまたまコラムニストのえのきどいちろうさんが、ボクと同じきっかけで同じ楽器を同じ教則本付きで買っていたことが後日判明したんです(笑)。だから『これからはウクレレだ!』と(笑)、小さなグループのなかだけで盛り上がっていました。ちょうどその頃にウクレレカフェカルテットとかゴンチチの(チチ)松村さんとか、IWAOくんとか、日本でウクレレを持った人が何人かいて、同時多発的に小さなウクレレ・イベントも開催され始めて、マニア的にはけっこう盛り上がったんですよ。イギリスでザ・ウクレレ・オーケストラ(オブ・グレート・ブリテン)という人たちのアルバムが出て、それが日本でもちょっと話題になった時期だったんです。
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ウクレレ快楽主義
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ウクレレ・ラヴ
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若者がウクレレのイベントをやり始めたのは1992年くらい。パルコのスタッフでウクレレ好きの人たちが企画した、ウクレレ・カフェというイベントが渋谷のスペイン坂であったんですが、それが最初かなぁ。そんな感じでマニアたちがつながって、『ウクレレ快楽主義』(TOKYO FM出版刊)という本を作ることになったんです。ボクは責任編集という立場だったので、みんなに電話でインタビューをしたり、編集作業をしたり。そこからボクのウクレレ普及活動が始まったんです」
――もっと前の、ハワイアンが流行った世代(1920~30年代)の人たちはすでにウクレレを持っていたんですよね?
「そうですね。ただハワイアンの流行はその世代で一度途絶えているので、ボクたち世代は押し入れのなかでウクレレを見つけて、『これ誰の?』って聞くと『お父さんが若いときに弾いていたんだ』なんて言われるっていうエピソードはよく聞きましたね」
ウクレレ熱の高まり
――ウクレレを広めていこう、と思う具体的なきっかけは何だったんですか?
「自分自身がウクレレを弾いてみて『これはいい楽器だな』と思ったんですよ。とても手軽だし、かわいいし、一人で楽しめる楽器。自分自身を楽しませる楽器、という感じがすごくいいなと思ったんです。でも何を弾いたらいいのかわからず、ハワイアンでもないしなぁと思っていて……。そんなときにオータサン(ハーブ・オータ)の音楽に出会ったんです」
――どんな出会いだったんですか?
「えのきどさんのラジオ番組に世界一のウクレレ弾きがゲスト出演するらしい、という情報を聞きつけ、その日ボクはラジカセの前に正座してその番組を聴いたんです」
――笑
「『スターダスト』やショパンの『別れの曲』などを弾いてくれて、それがすごく良かったんですよ。ウクレレって敷居は低いけど奥の深い楽器だなぁと感じて、『こんなふうに弾けるようになりたい』と思いましたね。ウクレレ熱が高まったのはそこからです。まずはオータサンやウクレレのアナログ・レコードを集めました。当時ハワイアンミュージックはけっこうあったんですが、ハワイアンではなくウクレレがフィーチャーされた音楽を探したんです。でもアメリカの30年代から60年代にかけてのミュージシャンとか、オータサンの先生と言われているエディ・カマエくらいで、あまりなかったんです」
――それからウクレレ本体ももっといいものがほしい、と思ったんですか?
「最初は数を集めるつもりもなかったし、次へ次へという気持ちもそれほどなかったんですが、ハワイでたくさん見ているうちに、やっぱりほしくなったんです」
カマカの魅力とは
――今ではたくさんのウクレレをお持ちですが、関口さんにとってカマカとは何でしょう?
「ボクがハワイに渡ったときから、ハワイアンウクレレ=カマカと思っていたんです。それくらいのイメージがある。実際ハワイでカマカを持ち歩いていると、地元の人に『おぉ、カマカか! これはいい楽器なんだ』って言われるんですよ。高級品のイメージもあると思うんですけど、そう言われるとあらためていい楽器なんだと実感しますね。僕自身、ステージで一番多く使っているのはカマカですし」
――その理由は?
「音の幅ですかね。小さく弾いたときの音と強く弾いたときの音の幅に深みがあるんです」
――カマカはなぜそういう音を出せるんでしょう?
「古いカマカから順番に見ていくと、音は必ずしも一緒じゃないんですよ。その時代にあった作り方をしている。老舗でありながらそういう努力を続けているというところが素晴らしいと思います。現行のものはやっぱり今の音ですよね。ゴールドラベルはあの時代(1940年代~60年代)のウクレレのイメージにぴったりの音なんです」
――過去の名産ではなく、歩み続けているところに惹かれている、ということですね。工場に行くとボディをノックして音を確かめている光景をよく目にするんですよ。製作の工程のなかでその都度職人たちが自分の手の感覚で確かめているんです。“カマカならではの音”にすごく意識を高く持っているクラフトマンたちです。だから数をたくさん作れないんですけどね(笑)。カマカに対して、関口さんはヴィンテージ・マニア的な見方をしていないですよね。
「ウクレレの歴史からいってもカマカは大事なところを担っているわけですから、そういう意味での魅力ももちろんあるんですが、僕は使う楽器として見ているので、“今何ができるメーカーなのか”ということが大事だと思うんです。カマカはハワイのミュージシャンのいろんなリクエストや使う人のニーズをちゃんと反映させていますよね。そこがいいんです」
※1『カイロの紫のバラ』(1985年・米 原題『The Purple Rose of Cairo』)
監督・脚本:ウディ・アレン
1930年代半ば、不況のニュージャージー。失業中の夫を抱える妻のセシリア(ミア・ファロー)の心の支えとなる楽しみは、映画を観ること。彼女は今『カイロの紫のバラ』という映画に夢中で、観るのがこの日で5回目だった。それに気づいた映画の主役トム(ジェフ・ダニエルス)が、スクリーンから抜け出し、客席のセシリアに語りかけた。そのため映画は進行が止まってしまい、一大事に。当のトムは、次第にセシリアに恋をしてしまう。そこへトムを演じた俳優ギル(ジェフ・ダニエルス)も現われて、彼も彼女に恋をしてしまう。やがてトムはスクリーンの中に戻って行き、ギルはセシリアといっしょに旅立とうと誘う――。
もし映画の登場人物と恋ができたなら……という、映画ファンなら誰でも抱く夢をウディ・アレンが脚本・監督した1本。劇中、セシリアが奏でるウクレレには彼女の心情が表現されており、ウクレレはこの映画のなかで重要なアイテムとなっている。
※2『ウクレレ快楽主義』(1992年 TOKYO FM出版)
責任編集:関口和之
元祖ウクレレブームの火付け役であり、ウクレレの楽しみ方とウクレレ的生き方を提唱し、ウクレリアンのバイブルとなった伝説の本。カジュアルな楽器であるウクレレをさまざまな角度からマジメに考察しているところがスバラシイ。
内容:コミックス しりあがり寿/当世ウクレレ新事情/ラジオ放談/特別寄稿[小泉今日子][チチ松村][えのきどいちろう]ほか/ウクレレ名鑑/ウクレレの歴史/ウクレレカタログ/基本テクニック/ウクレレ唱歌集[CM/TV主題歌][ハワイよいと][北風小僧の寒太郎][風に吹かれて]ほか/ハワイ取材編/インタビュー集/ウクレレ生活者の手記 ほか
※3『ウクレレ・ラヴ』(1997年 TOKYO FM出版)
責任編集;関口和之
「新・ウクレレ快楽主義」と題し、ウクレレへの愛が詰め込まれた本。竹中直人、浅野忠信、緒川たまき、サエキけんぞうらウクレリアンズ総出演。教則付きのウクレレ・ソング20曲も収録されている。構成の楽しさとポップなデザインも魅力。
内容:ウクレレの神様・ハーブオータ/オータサン・バイオグラフィー/インタビュー 竹中直人、チチ松村、高木ブー、緒川たまき、ペティ・ブーカ、渡辺香津美/寄稿&プチメッセージ みうらじゅん、加藤賢崇、野村義男、遠藤賢司、安斎肇、サエキけんぞう、岸野雄一ほか/ポエムグラフィ 浅野忠信&沼田元氣/ウクレレ・スポット/ウクレレ・ソング ほか
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