Vol.2:
ウクレレの立ち位置とは。
海外でやらなあかん
――松井さんの音楽活動は海外での経歴が長いですが、そのきっかけは?
「昔、勝部賢二さんというアコーディオン奏者がコンフントなどメキシコのルーツ・ミュージックをやっていて、『こういう音楽をやるんなら現地の人と一緒にやらなあかん』という考え方だったので、ツアーに連れて行ってくれたんです。20代後半から彼のバックバンドで年間3~4回くらいアメリカに行っていましたね。サウス・テキサスでフラコ・ヒメネスとかスティーヴ・ジョーダンと同じステージに立ちました。ライ・クーダーのバックの人たちと一緒になったり」
――楽器は何を持って行ったんですか?
「僕はベースですけど、よくウクレレも持って行きラジオで弾いたりしましたね。中学校とか高校に行ってウクレレを弾いたりもしましたし」
――勝部さんとはどうやって知り合ったんですか?
「知り合いにレコーディングのための場所を貸したんです。そのとき彼はアコーディオンで、僕もギターの演奏で雇われていて知り合ったんです。その後電話がかかってきて、『暇ならベース弾いて』って。『……ギターなんやけど、まぁいいか』ってことで、初めはそんなに興味なかったんですけど、その時代の音楽は聴いていたし、テックス・メックスという音楽は知っていたので、ツアーに行くことになったんです。彼は癌で亡くなってしまったんですけど、大阪の一部の人の間では伝説的な存在だし、アメリカでレコードも出しています。彼は普通のサラリーマンだったので、有給休暇をとって向こうに行っていたんですが、“サウス・テキサスで一番有名な日本人”って言われてましたよ。彼の影響もあり、僕らもこういう音楽をやっているんだから向こうでやるべきだと思うんですよね」
――海外と日本では音楽的に全然違いますか?
「海外の方が終わったときのリアクションとか面白いですよね。日本人はこういう音楽を知らない人が多いので、初めて聴く音楽だし、初めて見る楽器だし、『なんか古臭い音楽だな』って思うみたいですね。向こうではみんなが知っている音楽なので、全然違いますね」
――彼らにとってのルーツですからね。
「日本人は若く見られるから、『俺らのルーツを若い小僧が演奏してるよ!』って。絶対に“Boys”って言われますからね。もうええ歳やで、って感じなんですけどね(笑)」
――有山じゅんじさんにギターを習ったきっかけは?
「ぶっちゃけ、昔有山さんにギターを習いに行ったとき、あまりよく知らなかったんです。プロフィールに『ギターを有山じゅんじに師事』って書いていますが、もともとは友達に勧められて行ったんです。古い音楽ばかり聴いて今の音楽を全然知らないから、有山さんのことも知らなかったんです。でも見た瞬間に『この人はちょっと違う』と思いましたね。今まで見たことのないタイプの人だったんで」
――有山さんには何て言われましたか?
「ずっと『来んな』って言われてました。『お前弾けんのやから、他のやつに迷惑やから来んな』って。1年くらいで行かなくなっちゃったんですけど……というのも、有山さんは手の力が強いんですよ。有山さんの弾き方を見て、ギターは肉体勝負だと思いました。勝てないと思って、あのスタイルは封印しました。出音が全然違うんですよね」
――あのパンチ力はすごいですよね。
「細かいこと云々じゃなく、あの歌い方同様にギターも喋るように弾くんですよね。キャラクターがそのままギターにも出ますよね」
――松井さんは音楽的にまったく直球じゃないですよね。
「直球は嫌いです。ニッチな、隙間を探してやってますね。マンドリンとかスティールギターを弾いている人って少ないでしょ? そうなると『お前やれそうだから、それやれ』って言われたりするので、その楽器について調べ出すんです。音源を聴き込んだり、チューニングを調べたりして」
――調べることが好きなんですね。調べることを楽しめるのは、ひとつの才能ですよ。
「アメリカから新聞を取り寄せてみたりとか、メールオーダーで当時の楽譜を買ったりとか、もう楽しくて。買い物がすごく好きなんですよ。20年代に出版されたギターやウクレレの教則本を買いあさり、調べて弾く。……そしたら、このざまですよ」
――ルーツを取り入れるというよりも、その時代に行ってますよね。
「そう、あの時代にいたいんですよ」
ウクレレの使い方とは
――松井さんがウクレレを弾いてみようと思ったきっかけは何だったんですか?
「ロイ・スメックです。彼の『スメック・ショート』というビデオをメールオーダーして観たら、すごい芸達者でウクレレを回しながら弾いたりするんです。それを観て、もうこれはやらなくちゃ! と」
――ハワイアン・ミュージックが好きだったからではないんですね?
「キング・ベニー・ナワヒが『ウクレレ・ベニー』やジム&ボブが『スウィート・ジョージア・ブラウン』という曲をウクレレで弾いていて、それにはすごく影響を受けたし憧れましたけど、ヴィンテージ・ハワイアンにおいて、ウクレレは伴奏がメインじゃないですか。ソリストでやっている人もいますけど、やっぱり少ないですよね。
それに20~30年代のハワイアン・ブームって、たぶんハワイで起こったんじゃないんですよ。アメリカの西海岸とかで録音されたものがメインだったんです。ハワイのミュージシャンが西海岸とかニューヨークに渡って当時の有名なジャズ・ミュージシャンたちと一緒にやっていたんです。僕もジャズっぽいハワイアンがすごく好きだったので、ハワイアンが好きというよりも、ハワイの人たちが出稼ぎに行って作った音楽が好きなんです。
『ハワイアン・ギター・ホット・ショット』というアルバムがすごく好きで、それまではロバート・ジョンソンとかカントリーブルースが大好きだったんだけど、これを聴いて一気にポップな方に行きました」
――松井さんの場合、ウクレレはひとつの楽器であって、いろんな楽器の中のひとつの音ということですよね。その方がカッコいいと。
「うちのバンドでもウクレレはそういう扱いです。もちろんフィーチャーする場合もありますけどね」
――どういうときにウクレレの音を入れようと思うんですか?
「僕が使う楽器は基本的に鉄弦なんですよ。ギターもスティールギターもそうだし。だから音の余韻というかサスティーンの感じがウクレレだけ違うんですよ。僕の場合はちょっと特殊な弦を使っているんですけど、ちょっと“ふわっ”とするんです。楽器と楽器の間を繋ぐような感じなんです」
――今はウクレレとかラップスティールの音を入れるミュージシャンは少ないじゃないですか。昔の音楽にはよくあったのに。限られたミュージシャンだけで音を作っちゃうからですかね? 間奏の部分なんかにウクレレの音が入っていると新鮮ですよね。
「ウクレレのイベントに呼ばれたりすると思うんですけど、ウクレレの音って、わざわざフィーチャリングするのは違うと思うんですよね。僕らはライヴではピックアップを使わないので生音だから、普通に考えたらアンサンブル上でウクレレがリードをとるのって、かなり難しいんですよ。まぁ、僕らも実験したり、面白半分でやったりはするんですけど、スタンス的には違うんですよ。ウクレレは僕らの中でアンサンブルという立ち位置なんです」
――アンサンブルでのウクレレの魅力とは?
「僕はまずウクレレを何に使うかというと、アレンジです。最初に楽譜を見たときに、僕はピアノが弾けないのでウクレレを弾くんです。ギターは構えるでしょ? ウクレレは軽く持てるのでラクなんです。G線が面白く使えるので、ホーンセクションのアレンジをするときでもウクレレは十分使えるんです。そう、アレンジをするのにウクレレはすごく楽しいですね。ギターの曲を作るときにはわざわざ使わないですけど、バンドのアンサンブルだとリフを考えるときとかはウクレレですね。ピアノを弾けない人には最高ですよ」
――ギタリストとか他の楽器を弾ける人にもウクレレも手にしてほしいですよね。ソロのウクレレ奏者ばかりをフィーチャーしてウクレレだけを前に出すと、せっかくの音楽業界の中で楽器としての存在が孤立する気がするんです。ギターも弾くミュージシャンたちがどうやってウクレレを弾いているのか、ということに興味があります。
「ウクレレでアレンジしたら絶対にギターと違う発想ができるし、面白いですよ」
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