musician's talk ウクレレを愛するミュージシャンへのインタビュー
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Vol.3 ウクレレおたくとウクレレ作りおたく!?

jake shimabukuro

ウクレレ1本で表現するために

――今回のツアーでは『Bohemian Rhapsody』のカヴァーに圧倒されましたが、カヴァー曲をアレンジするコツやセレクトする際のあなたなりの基準はありますか?
「とにかく演奏して楽しいかどうかなので、やはりビートルズやジョージ・ハリソン、マイケル・ジャクソン、クィーンなど自分が好きなバンドやミュージシャンの曲をカヴァーすることが多いです。よく例えるんですけど、カヴァーすることは自分が好きなスポーツ選手のユニフォームを着るのと同じなんです。僕は子供の頃マイケル・ジョーダンの大ファンで、ナイキのスニーカー、エア・ジョーダンをいつも履いていました。フットボールではサンフランシスコのフォーティーナイナーズのジョー・モンタナという最高のクォーターバック選手のユニフォームを着ていたこともありました。それと同じで、僕にとってカヴァーソングは“僕はビートルズのファンであることを誇りに思っている!”という表明なんです。大好きなミュージシャンや曲への情熱を表現しています。自分がオリジナル曲を聴いた時に感じたことを表現するカヴァー曲もありますが、『Bohemian Rhapsody』に関しては素晴らしい曲だという尊敬の気持ちを込めてカヴァーしました。でもね、最初は冗談半分で始めたんですよ。スタッフたちとウクレレでこの曲が弾けたらすごいよね、という話になって、アレンジを始めてみたんです」

――『Bohemian Rhapsody』が弾けるということは、ウクレレで弾けない曲はない?
「どの楽器でもシンプルにすればどんな曲でも弾けると思うんです。僕もオリジナルの音をすべて弾いているわけではないし、マルチトラックで録音しない限り、すべての音を弾くということは不可能ですけど、アレンジできれば演奏を可能にする方法を見つけることはできるわけです。今回もいろんな選択をしました。この音を入れたらこの音が弾けないとか、音を天秤にかけてどの音を弾くかを考えたんですが、オリジナルはコードヴォイシングにしてもピアノやギターなどそれぞれの楽器がいろんな音を弾いているのでハーモニーがとても分厚い。たとえば一度に7つの音があっても自分はウクレレで4つの音しか弾けないので、吟味して選びました。ただ自分が選んだ音できちんと曲のフィーリングが伝わるように選んだつもりです。みんなが知っているロックの名曲だし、この曲をカヴァーすることで自分を批判にさらけ出すような気もしますし、とても難しいカヴァーでしたけど、自分自身がすごく楽しめました」

いい楽器とは、繊細であること

――ファーストウクレレからカマカだったということで、ずっとカマカウクレレを弾いていらっしゃいますが、現在お使いのモデルはケイシー(カマカ社のカスタム担当)とどのように相談して作ったんですか?
「僕のすべてのカスタムウクレレをケイシーが作ってくれていますが、『こういうふうにしてください』と僕から言ったことはなく、すべて彼に任せています。彼はウクレレ作りの天才で、毎回作ってくれたウクレレに対して『最高! これ以上のものはできないはず』と思っても、必ずさらにいいウクレレを作ってくれる。彼は常に新しく研究したり実験したり、よりいいウクレレを作ろうと努力しています。僕はウクレレおたくだけど、彼はホント“ウクレレ作りおたく”です(笑)。このウクレレに関しては何よりも繊細なところが好きで、本当に音が素晴らしいんです。ウクレレという楽器は本来薄い音のはずなんですが、出る音の幅が広く、いわゆるウクレレらしい音も出せるし、すべての自分の動きに反応するのでその時々のキャラクターの音色を出すことができるんです。目を閉じて音を聴くと、クラシックギターのように聴こえることが多いし、あるときはハープのようだったり、ピアノや琴だったり。たとえばスタインウェイのピアノはひとつの鍵盤を人差し指で押すか中指で押すかによって音が違って聴こえるという本当に繊細な楽器なんです。自分の動きに敏感に反応する。逆に質の悪い楽器だとどの指で鍵盤を押しても同じ音にしか聴こえない。どれだけ繊細かということがいい楽器とその他の楽器を分けるポイントだと思います。それにケイシーはどんな楽器を作る場合でも自分のすべてを注いで作っているので、それが僕のウクレレだろうが、ウクレレを弾き始めたばかりの子供のウクレレだろうが、平等に同じ努力を注ぐんです。友達から『ケイシーにカスタムのウクレレをオーダーしたら2年もかかるって言うの!』って言われたこともありますが、僕も同じなんですよ。何年も待ちます。誰に対しても、どの楽器に対しても同じようにベストの努力を尽くすから、とても尊敬しています」

ジェイクの歴代のカマカウクレレはすべてテナーサイズで18フレット仕様。このメインウクレレは最高級のフレイムド・コア材のボディに、指板にポジションマークを入れずトレードマークJSのロゴが施されたネック、そしてカスタムならではのスロッテッドヘッド仕様。アバロンと赤い材を合わせたロゼッタ&ボディ外周のバインディング、さらにヘッドの外周とネックにも細い赤のラインが施されているのが特徴。2006年に限定100本で発売されたシグネチャーモデルは、このウクレレが基本となっている。

――次のカスタムウクレレはもう受け取っているんですよね?
「自宅にあり、そのウクレレで『Bohemian Rhapsody』のレコーディングをしました。ウクレレと自分が馴染むには時間がかかるので、まだ馴染ませているところです。カマカファミリーは本当にいい人たちで、さっき僕の哲学を“いいミュージシャンである前にいい人間”と言いましたが、カマカファミリーもその通りの人たちで、素晴らしいウクレレ・メーカーである前に素晴らしい人間であることを大切に思っているような家族なんです。大きなハートがあり、地域への貢献などもしっかり行っている。特にクリス(カマカ社のプロダクション・マネージャー)は僕が知っている人間の中で最もやさしい人です。カマカのウクレレを自分が弾けるということをとても誇りに思っています」

――来年はソロデビュー10周年ですが、どんなことをウクレレでやっていきたいですか?
「ありふれた退屈な答えかもしれないですけど、ウクレレプレイヤーとして、また人間として成長し続けて、自分のアイディアや感情をよりクリアに表現して、音楽を通して人々を幸せにしていけたらいいなと思っています」

――そういうことのためにふれあいの旅などもやっているわけですね。
「コンサートに行きたくても行けない人々がたくさんいます。それなら自分から行こうと思ってふれあいの旅をやっているんですが、よく『訪問するなんてジェイクさんやさしいね』って言われるんです。でもときにはふれあいの旅でできるつながりというのは普通のコンサートよりも深いものだったりするので、自分にとっても充足感のある経験なんです。人とつながることは自分が音楽を続ける目標であり動機でもあるわけだし、人とお互いに何かを感じ合えたと思うときは自分も元気をもらう。さまざまな施設が自分を呼んでくれるということにすごく感謝しています」























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