musician's talk ウクレレを愛するミュージシャンへのインタビュー
gray-dot
Vol.3 歌うためのウクレレ

sekiguchi


――勝さんがカヴァーする曲はどういう視点から選んでいるんですか? どういう曲がウクレレでカヴァーするのにいいとか、なにかありますか?
「1枚目のアルバムはすんなりカヴァー曲も決まったんですよ。『ルパン三世のテーマ'78』とかビートルズとか、やってみたらすんなりハマりました。『大きな古時計』はワークショップで一番初めにやった曲で、僕が世界一好きな曲なんです。もともとピアノで自分なりにアレンジしていたんで、それをそのままウクレレに置き換えただけで、コードワークも一緒です。『Bohemian Rhapsody』は誰もやらないだろうと思ってやったら知り合いに『あぁ、いいですよね。ジェイクもやっていますよね』って言われちゃったんです(笑)。You Tubeでジェイクのプレイを見たらすごくカッコイイ(笑)。2枚目のアルバムを作る時にはジェイクの知っている曲はやめようと思いました」

――(笑)。じゃあ特に“こういう曲がウクレレにいい”っていう傾向はないんですね?
「そうですね、ベタな感じにならないようにとか、響きが面白く聴こえるとかは意識しますけどね。実は2枚目のアルバムに『げんこつやまのたぬきさん』を入れたかったんですよ。『Roxanne』みたいにポリス風にしたらカッコいいんですよ」
(とピアノで弾いてくれる)

――カッコイイですね!
「だけど曲が短いから展開させられなかった(笑)。いつかやりたいですね。ちょっとカッコイイコードワークとかテンション感とか、ジャズやハワイアンとはちょっと違うものが好きみたいです。だからハイGの方が性に合っているんです」

――勝さんのGストリングのウクレレは全部ハイGですか?
「3本のうち2本がハイGで1本がローGです。スコアを書くときにローGのユーザーがどう聴こえるのか確認するためにローGも用意しているんですけど、なんか僕にはローGって難しくて……」


2本目となるGストリングのテナー・カスタムで、現在のメインウクレレ。スロッテッド・ヘッドと、アールのついた指板が特徴。フィッシュマン製PUシステムが取り付けられており、オンボード・プリアンプ“PREFIX”も装備。

――スコアは基本的にハイG用?
「そうですね、ただローGの人でもメロディに支障がないようにアレンジはします。でもね、以前ジェイクの『一期一会』のスコアを書いたんですけど、ジュリーの『時の過ぎゆくままに』をハイGで弾くとメロディが違っちゃうのに、ジェイクはそのまま弾いてましたね。おそらくジェイクの選んだ答えは“気にしない”ってことなんだと思います(笑)。音楽は流れで聴くものだから、実はそう気にならないこともあるんですよね」
(とハイGで『時の過ぎゆくままに』を弾いてくれる)

――なるほど、確かにそうですね。メインウクレレはGストリングのテナー・カスタムですよね。
「これは今年新しく届いたものです。基本的にはお任せで作ってもらっているんですけど、指板にアールをつけて、スロッテッド・ヘッドにしてもらいました。あとフィッシュマンのプロブレンド(オンボード・プリアンプPREFIXシリーズ)をつけてもらいました。以前のものよりもネックの厚みがありますし、アールがついているとバレーコードとかがすごく楽です。最近のGストリングの傾向だと思いますけど、材の厚みが薄くなっているんで、僕の最初のGストリングとは音がまったく違いますね。最近ようやくこのウクレレにも慣れて弾き方がわかってきました。最初はガツガツと弾いていたんですけど、それだとイメージする音にならないんです。このウクレレで優しく弾くことを学びました」

――面白いですね、それぞれの楽器が弾き方を教えてくれるわけですね。
「同じメーカーの同じモデルでも音がぜんぜん違ったりしますよね。以前のメインウクレレはよく“アルデンテみたいな音”って表現していたんです。芯はあるんだけど周りにふくよかでもっちりした音質のある感じの音。このウクレレも芯はあるんですけど、フワッとしているんです。言葉で表わすのは難しいですけど、こっちの方がやさしくてブライトですね」


――勝さんの好みのウクレレの音とは?
「Gストリングの音は安心する音色なんですけど、ほかのウクレレを弾く時もそういう音になるように自然と指の角度が変わっていたりすると思うんです。好きな音ってやっぱりありますよね。カマカのコンサートの音も好きですよ」


カマカHF-1DX(デラックス)。スタンダードモデルに比べ、カーリーの入ったグレードの高いハワイアンコアをボディに使用し、指板とブリッジにはエボニーを使用。ボディトップの外周とサウンドホールの周りにはロープバインディングが施されており、その名の通り豪華なモデル。現在はワース弦を使用しているとのこと。

――カマカのHF-1DXはいつ手に入れたんですか?
「初めて自分でウクレレを買おうとしたときに、ウクレレのことは何も知らなくてもとりあえずカマカの名前は知っているわけですよ。それで楽器屋さんを見て回って、神田のザ・ガレージに行って出会ったのがこのカマカなんです」


――弾いてみていかがでした?
「初めて自分で買うウクレレだったからお店で弾いているときは興奮状態(笑)。でもしばらくして僕がイメージしていたカマカの音とはちょっと違うなと感じたんですよ。それでしばらくあまり弾かなくなっちゃったんです」


――最初にイメージしていたカマカの音はどんな音だったんですか?
「丸くてコロンとしたイメージでした。スーパーボールみたいなコロコロしたイメージがあったんですよ。それで丸みを出すために弦を替えてみたりしたんです」

――買ったばかりの頃はその丸みがなかったということなんですね。
「そうなんです。それが今年に入って僕のイメージの音にすごく近づいてきたんです。今はすごくいい感じになって、この間『ウクレレ・スタジオジブリ』(ドリームミュージックファクトリー刊)のレコーディングで弾きまくりました。全曲このカマカで弾いています」


――ベースの音はどんな音が好きなんですか?
「指で弾くよりもピックで弾くベースの音が好きです。ゴリッとブリッと。コードがAと言われたら永遠と“ララララ”みたいな(笑)。たまにミとか入れてね。でもウクレレと一緒に弾くとなると、ベースでルートだけ弾いているのがもったいない感じがして暴れちゃうんです。ただそこにパーカッションとか別の楽器が入ってきたらもっと落ち着いたベースにはなります。ウクレレってアンサンブルが見えやすいですよね。バンドだといろんな音を入れちゃいますけど、ウクレレだとシンプルになる。アンサンブルの組み立てをどれだけわかりやすくするかという意識は働きます。そこが難しくもありますけどね」


――いろいろとお聞きしましたけど、勝さんにとってウクレレとは?
「僕のなかでウクレレというのはツールなんです。歌を歌うためのツール。だから僕はウクレレの魅力を最大限に活かすという使い方をしていないかもしれません。でもだからこそほかのアーティストたちとの違いが出せて、しかもそれが自分の好きなスタイル。まだ模索している段階ではありますが、アルバムを2枚出してだんだん自分のスタイルが見えてきたと感じています。まぁ自分がどんなふうに変わっていくのかわからないですけど、それを自分でも面白がっています。楽しくやるのが一番ウクレレらしいですよね」


知人から譲り受けたというヴィンテージのマーティン・スタイル1。その仕様から、おそらく1930年代のものと思われる。






















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